『アンタッチャブル』感想

松平健主演の舞台『アンタッチャブル』を見てきた。2011年5月14日(土)12時公演。ヒロインがダブルキャストで、東京で櫻子ちゃんが見られるのはこの回だけ。劇場の予約でチケットを取って、14列のセンターブロック。舞台全体は見やすいけれど、わりと遠目なので櫻子ちゃんの顔が分からなかったらどうしようと少し心配していた。けど、やっぱりヒロインならではの扱いだし、舞台上の誰よりもよく知っている人だから見間違うことはなくて、まったく杞憂であった。以下、ネタバレ含めていろいろ。

ラブ・コメディー『アンタッチャブル』
作・演出 斎藤栄作
シアター1010

【ストーリー】1930年、「禁酒法」はシカゴをギャングの街に変えた。10億ドルの密売酒市場のあがりをめぐる血の抗争。それはマフィアの時代、アル・カポネの時代。治外法権化したこの街へ、財務省の捜査官エリオット・ネスがやって来る。その頃アル・カポネは、弟ディノの店「コットンクラブ」のマリアに一目惚れ。つい「ガードマンの面接に来たジミー・マローンだ」と正体を偽ってしまい、周囲の人間を巻き込んでカポネの二重生活が始まる。さらに、なんとマリアはネスの妹だった!カポネは愛するマリアのために、ジミーとしてネスに捜査協力を約束する。ネスの狙いがカポネ本人だとも知らずに……。
『アンタッチャブル』公演オフィシャルサイト 2011 より)

幕が開いてしばらくは演技の質があまり馴染みのない感じで戸惑った。あの、ものすごーく分かりやすすぎるくらい分かりやすい演技はなんなんだろう。「お芝居をやっている人のマネをしてるところ」かというくらい、奇妙なデフォルメ。最近、舞台をあまり見ていなくてテレビドラマばっかりだから違和感あるのかもしれない。

出てくる人出てくる人、かたっぱしからその調子なのでどうしようかと思ったけど、主役の松平健が登場したころには諦めて、そのうちすっかり慣れてしまって二幕ではぜんぜん気にならなくなっていた。あまりお金を使いたくなくてプログラムは買わないつもりだったのに、一幕終わったらやっぱり欲しくなって買ってしまったくらいだもの。櫻子ちゃんの演技もOSKであの調子だったら「もうちょっとなんとか……」と言いたくなったかもしれないけど、今回はこれでいいのだろう。

櫻子ちゃん演じるマリアはブロードウェーを目指すダンサーの卵。ショーガールとしてもまだ日雇いで、花屋のバイトなんかもしている。休日の誰もいないステージで「今がチャンス!」と歌い始めるその瞬間、彼女がさっと片手を高々とあげるところで、ぎゅっとした。そっからもう只者じゃないオーラがぶわっと吹き上がるんだもの。本当に櫻子ちゃんの身のこなしは鮮烈だ。マリアに才能があるということ以上にマリアの希望や若さを表現しているのだなぁと思って、ここですでに涙ぐんでたわたくし。

正直、このマリアって役はそんなに魅力的な役とは思えなかった。ふつーに若くてふつーに可愛くてふつーに才能あってお兄ちゃんっ子で友達思いで幼なじみの男の子にはちょっと強気で、ああ、まぁ、ヒロインらしいわねー的な。けど、舞台で見てると設定や台詞を超えてなーんか良かった。

マリアと一緒にショースターを目指しているキャサリンっていう女の子がいて、この子は「え?櫻子ちゃんの隣で踊ちゃったらちょっと」って見えたのだけど、もともとマリアのほうが上手いという設定だった。キャサリンはマリアに「もう私を待たなくていいからね」って言う。このシーンでもじわっときた。単にマリアが友達思いでレベルを合わせてたっていうことじゃないように思えたから。

そういうつもりはマリアにはなくて、でも自然とそうなってしまっていることに気がつくキャサリンの聡明さが、いいんだ。そして気がついていても言い出せなかったことをきっと悩んでいたんだろうな、とも思った。台詞や歌で表されているけど、マリアも常に夢に向かって邁進しているわけじゃなく、むしろ上手くいかないことばかりでため息をつくことも多いし、少なからず「お兄ちゃんに置いて行かれた」コンプレックスもあるみたいだ。キャサリンに「待たなくていい」って言われたマリアは、しばらく黙って立ちつくす。あの一場面でマリアとキャサリンがずっと一緒に頑張ってきた絆の深さや、ポジティブなものばかりではない複雑な関係が垣間見れた気がしたのだった。この話のなかで男の人たちはさかんに「ファミリー」という言葉を使う。女の子たちはそんな言葉を使わなかったけれど、やっぱりこのふたりも「ファミリー」だったんだろうな。

マリアがジミー(と思い込んでるけど、実はアル・カポネ)にハッピーバースデーを歌ってと頼んだのに、途中で駆け去っていくところ。「なんなんだよ!この女!いや、櫻子ちゃん可愛いからいいけど!」と思ってたけど、これが、けっこう後で効いてきた。そんなことをされてもアルは怒らないし、たぶん理由を聞くこともしなかったはず。マリアは彼とデートもするけど、ようは彼に甘えてただけなんだろう。「ジミー」はマリアに夢と希望と癒しを与えた。マリアはそれを無邪気に受け取ってきた。だけど彼女はそれらをとても大切にしたし、「アル・カポネ」が去っていくときに、自分が受け取ったものの重さに気がつく。それでハッピーバースデー。泣くよ!これは泣けるよ!

アル・カポネがまたいいんだわ。いや、今までさんざん悪いことをしてきて人もたくさん殺して、それ以上に多くの人の人生をめちゃめちゃにしてきたくせに、足を洗いたいもなにもないんだけどさ。「いくらフィクションでもそんなやつがめでたしめでたしで終わっていいのかよ!」と思うんだけどさ。しかし何せこれ「ラブコメディー」だし、特に2幕ではすっげー馬鹿馬鹿しい場面ばっかりで、どんどんアル・カポネが可愛く見えてきて(そう見えるようになってるのは分かるけど、すっかりはまった)、そうなってからの「やっぱり無理だったんだな……」だから、なんというか、わりとぬるいジェットコースターでキャーキャー喜んでいたら、最後でフリーフォールっ!みたいにドンッときた。

本物のジミーの「子供がかっこいいって言ってくれたんだ」とかも、すげー泣けた。フランチェスコとカルロもすごくすごく良かった。カルロとかめっちゃ萌えるでしょう。もー脳みそがどろどろになって耳からこぼれるくらい美味しい役。空き缶を撃ちぬく場面もちゃんと伏線になってたし、すっげーベタな物語のわりには細かい演出が上手いと思った。あとジョニー・トーリオの使い方も上手かった。最後に黙って横切るとことか、過去にアル・カポネが聞いた言葉を組み合わせてるだけってとことか。もうちょっとやりすぎたら「けっ!」ってなりそうなところを、絶妙にまとめてるって感じ。

あと思いつくかぎり。私が見たジョージは荒木健太郎だったらしい。プログラムには自分の役について「ストレートな奴です」って書いているけど、あんまりそうは見えなくて、私はそこが気にいっていた。絶対、屈折してるよ、あいつ。後ろから人のやりとりを黙ってみているときの目の動きが抜け目無さそうで疑り深い感じで良かった。

エリオット・ネスはなんせ正真正銘正義の人で、私がぜんぜん興味を持てないタイプだからなぁ(歌が1曲あったけど、スーツとあいまって演歌かムード歌謡みたいな雰囲気になっちゃって気の毒だった)。でもそれくらいまっすぐな熱血漢だからこそ、アル・カポネの心に潜んでいた「正しさに憧れる気持ち」に敏感に反応したのだと思う。だからきっと暗い過去とかをちらっとも感じさせないのが正解なんだろう。

エリオットもジョージもそうだしフランチェスコもカルロもオスカーもディノも、とにかくみんな好きだわ。女性記者も、なんか嫌な描かれ方だなぁと思ってたけど最後の札束ポンポンポンで帳消しになった(でもなんでフランチェスコに!?)。踊り子三人組はおかっぱの娘が一番身のこなしが好きだった。

カーチェイスと馬の場面は傑作。いやぁ、あれは「義経桜絵巻」の一の谷に匹敵する名場面でしょう。櫻子ちゃんの脚がものすっごい高速でパタパタしててほんとものすごかった。つーか、あの場面が一番会場の拍手が大きかったもんなー。舞台セットは鉄骨と階段組んだだけっぽい感じ、ってそんなわけはないが、とにかく無骨でシンプルで好み。照明もいちいち綺麗だった。マリアが去ったあとにテーブルの上のダンスシューズにスポットライトがあったってるとことか、鉄柱の1本1本がライトアップされてるとことかが、特に印象に残った。

どうも「ラブ・コメディー」とか言われると腰が引けてしまうたちなので、櫻子ちゃんが出演すると言われなかったら絶対に食指が動かないタイプの作品だけど、すごく面白かったし気に入った。笑えるところもいっぱいあったし、登場人物のそれぞれが弱さとか辛さとかをベースに抱えてるところが良かったし、ビタースイートな後味も好きだ。あらためてプログラムとか公式サイトとか見ても、とにかく「コメディ」を全面に押してるわけで、泣いて笑って……なんてことはぜんぜん言われてないけど、涙ボロボロでカーテンコール中にあわててティッシュひっぱり出すほどっていうのは、観方が間違ってるってわけじゃない。はず。

お約束で言うわけじゃないけど、やっぱアル・カポネって大貴誠も似合うだろうなぁ。まぁ、ガタイのいい上様がやるからこその面白さだったわけだけど、大ちゃんなら大ちゃんなりに上手いことやると思う。けど、大ちゃんだともっとウェットにしちゃうかなぁ。きっと初日はすげー文句言いそう。でもって毎回ごとに進化しそう。なにせ「コットンクラブ」は「クラブチェリー」ぽくて、最後にカルロがコートを肩にかけるとことか、そのまんまあの場面で、そこはちょっと「うわっ」と思った。ていうか、大ちゃんがシカゴのマフィアって、それただの「遙かなる空の果て」じゃんよ(がっくり)。

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2 Responses to “『アンタッチャブル』感想”

  1. kei Says:

    はじめまして。
    感想、うなずきながら拝見しました。
    私は大阪公演を観たのですが、カーテンコール前の暗転で涙と鼻水を拭いていました(笑)
    いい作品でした。

  2. datura Says:

    コメントありがとうございます。
    やっぱ泣けましたよねっ!
    朝香さん出演のおかげでいい作品にめぐりあえました。